大判例

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神戸地方裁判所 平成4年(行ウ)22号 判決

原告

二見幾次

被告

(稲美町長) 井上芳和

右訴訟代理人弁護士

西村忠行

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について

被告は、訴外議員全員は出張命令で命じられた目的地たる沖縄県を訪問していないが、本件出張旅費を用いて、訴外議員全員のうち一七名は長崎県福江市、中華民国などを行政視察し、残りの一名は書籍を購入して視察に代えており、訴外議員全員に不当利得は認められず、しだがって、被告は違法な公金の支出をしていない、と主張している。

しかし、町議会の議員が出張命令で命じられた目的地に赴かず、別の目的地を視察する場合には、当該議員は一旦交付された出張旅費を返還して別の目的地を行き先とする新たな出張命令を受けてそのための旅費を改めて受け取るべきであり、最初の出張命令の費用を流用した場合は、たとえ、事後に再度の出張命令を受けていたとしてもその瑕疵は治癒されないと解するのが相当である。すると、本件のように、訴外議員全員が当初の目的地である沖縄県を訪問した事実がない場合は当然に出張命令違反となり、沖縄県出張のための旅費として受け取った本件出張旅費につき訴外議員全員に不当利得が成立することになる。

そして、訴外議員全員は、本件出張旅費を受ける際に、沖縄県に視察旅行に赴かないことにしていたものと推認できるから、その不当私得につき悪意であったというべきであり、少なくともそれに準じる程度の重大な過失があったものというべきである。

したがって、本件出張旅費につき、訴外議員全員について悪意又は少なくとも重大な過失による不当利得があったものと解するのが相当である。

二  争点2について

行政法上、地方公共団体から不当利得した場合、悪意の受益者は受けた利益の全額のみならずそれに利息を付して返還すべきかにつき特段の定めは存しない。

このように、特別の規定がない限りは、一般法である民法に従うのが相当であると解すべきところ、民法七〇四条は、「悪意ノ受益者ハ其受ケタル利益ニ利息ヲ附シテ返還スルコトヲ要ス」と規定している。また、会計法上、国の損害賠償債権及び悪意による不当利得の返納金債権については、納入告知書の履行期限は、当該行為のあった日を履行期限とし、その日の翌日から延滞金(法定利率年五分)を徴する取扱いとなっている。さらに、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」は、返還金には加算金、延滞金を付すべき旨を定めている(同法一九条一項、二項)。

もっとも、社会保険不正受給者に対する不正受給額の徴収については利息を付する旨の定めはないけれども、これは、社会保障制度の特例として解すべきであり、一般的には、公法上、悪意の受益者について民法七〇四条の適用を否定する趣旨ではないと解される。

したがって、行政法上、地方公共団体から不正利得した悪意の受益者は、受けた利益に利息を附して返還することが要求されているのである。本件においては、右1で述べたように、本件出張旅費の取得に関して訴外議員全員に悪意又は少なくともそれに準ずる程度の重大な過失による不当利得が認められるから、訴外議員全員は、訴外町に対して本件出張旅費を返還する際、これに対する受領の日から返還の日までの民法所定の年五分の割合による利息を付して返還すべき義務があったものと解するのが相当である。

三  争点3について

右2で判示したとおり、訴外議員全員が訴外町に対して本件出張旅費を返還する際にその受領の日から返還の日までの民法所定の年五分の割合による利息を返還すべき義務があったにもかかわらず、訴外町の町長が訴外議員全員に対して不当に利得したものとして右利息相当額の返還を求めないことは、地方自治法二四二条の「公金・・・の徴収・・・を怠る」場合に該当し、これによる損害は同法二四二条の二第一項四号所定の損害に該当するものと解するのが相当である。

したがって、訴外町の町長である被告は、故意又は過失によって訴外議員全員から右の利息の徴収を怠ったことになり、これにより訴外町に対して右の利息三〇万三二八七円と同額の損害を被らせているから、訴外町に対し、これが損害賠償三〇万三二八七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな平成四年五月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を免れない。

第四 結論

よって、原告の本訴請求は、右に判示した限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴外費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九二条但書、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 渡邉安一 溝口稚佳子)

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